「清新の気 永遠に」

今年、還暦を迎えます。母校を離れて随分と時が経ちました。時を重ねた分だけ出会いと別れを繰り返し、その都度新たな思い出ができるわけです。瞬間瞬間を真剣に過ごしたいと願い、懸命に生きようとすればするほど、新たな思い出ができ、同時に古い記憶はかき消されていきます。
ただ、記憶の底に沈み、かき消されたと思った記憶も、何気ない瞬間に蘇ってくることもあります。
当時陸上部に席を置いていた私は最後まで歩かずに走り切ることが目標でした。ゴールまでを走り切ること。一見他愛もないこの目標でしたが、成し遂げることは相当な体力や胆力を必要としました。
走路の大半が悪路であるため、腰への負担も尋常ではありませんでした。まして、その上初夏の陽光が容赦なく照り付けてきます。さわやかな川風に吹かれ、養老の山並み、岸辺の緑に心奪われていると、小石に足を取られ転びそうになる。体を立てて走ることが精いっぱいで、「もういいだろう。歩こう」「でも、あと百メートルだけ」と何度自身との会話を繰り返したことか。
「こんな大変なことをさせられる高校ならば、選ぶんじゃなかった」と何度自分の決心を恨めしく思ったことか。
尾西高校を卒業し、あれから、四十年。
ただ、心洗いたくなるとき、何もかも忘れて無心になりたいとき、必ずと言っていいほど、私は木曽川の堤防に立ちます。そして、「あの日」の自分と向き合います。
 止めれば楽になるだろう。諦めれば救われるだろう。ただ、……。
大木曽のたゆたふ川なみに心洗われ、養老のやさしき山なみの懐に抱かれ癒されるうちに、また、一歩踏み出す勇気が湧いてくる。不思議です。でも、とてもとても幸せです。

三回生 宮谷真一郎